イス 〜日本での普及〜

  正倉院の「御椅子」や「曲ろく」などではなく、実用としての椅子が使われるようになったのは、明治初期でした。それは、現在でも宮中で使われているビクトリア中期のバルンバックチェアやロココ様式の椅子です。しかし、これは美術工芸品としての要素が強く日常性という視点でみると特別扱いする必要があるようです。

 日本でイスが庶民に浸透していったのは、明治以降、学校・工場・役所・病院など公的な機関からでした。この頃、庶民が気軽に椅子式の生活を楽しめるようにと規格品を用いて合理的な椅子を作っています。これは、座布団を置いて使うことが前提でした。

 第二次世界大戦後、アメリカ軍のための住宅・家具を作ることにより日本の家具産業は急速に進歩します。そして、椅子の普及に大きく貢献したのがダイニングキッチンです。日本住宅公団が主婦の労働軽減のために団地にこの形式を採用したため、ダイニングテーブルとチェアの需要が生まれました。