← 転生者一覧に戻る

YOUR REINCARNATION STORY ◆ No. 000007

転生したら、草原のケンタウロスだった。

異世界で、あなたはこんな人生を生きた。

転生したら、草原のケンタウロスだった。 能力を発揮する場面
REINCARNATION RECORD

エルネ

草原の道案内と騎射の伝え手

転生先
亜人
種族
ケンタウロス
特技
騎射
生涯
約七十年。七十二歳で、家族に見守られて息を引き取る。
結末
平凡だが幸せな一生
RACIAL TRAITS / 種族の特徴

俊足と騎射、草原を駆ける文化

SPECIALTY / 特技の詳細

馬の胴と人の上半身を生かし、走りながら弓を引いて狙いを定める。揺れを抑えた射撃が得意だが、長く続けると肩と背が痛み、矢も限られる。

01

THE LIFE YOU LIVED

異世界で生きた、あなたの一生。

 雨で白く煙る夕方、あなたは駅前の横断歩道で、転びかけた子どもに気づいた。信号は赤に変わり、曲がってきたトラックの運転手がブレーキを踏む。あなたは子どもの腕をつかみ、歩道へ押し戻した。小さな体が母親の胸に飛び込むのを見届けた瞬間、あなたの背中に強い衝撃が走った。あなたは、誰かが助かったと確かめる暇もなく、意識を手放した。

 次に聞こえたのは、風に鳴る草の音だった。目を開けると、そこは果ての見えない草原。人の顔をしたあなたの体には、栗色の馬の胴と四本の脚がついていた。驚いて起き上がろうとして、脚がもつれ、土に顔から突っ込んだ。見守っていた母親は笑わず、鼻先であなたの頬をそっと押した。あなたは異世界で女の子として生まれ、エルネと名づけられた。

 幼いころは、歩くことだけで一仕事だった。人の子なら走り出す年齢になっても、エルネは坂道で転び、草の根に足を取られた。だが、群れの子どもたちが駆け比べを始めると、彼女は風を追うように速くなった。走るのは楽しかったが、速さを誇るだけでは群れの役に立たない。草原では雨や獣の気配を読み、離れた仲間へ知らせる者も必要だった。

 エルネが騎射を教わり始めたのは八歳のときだ。先生のセラは、弓を持つ腕を強く引くより、馬の胴の揺れに逆らわないことが大事だと言った。初めて走りながら矢を放った日、矢は的を外れて、草むらで水を飲んでいたヤギを驚かせた。ヤギ飼いの少年トゥムは「その腕で狩りをされたら、ヤギより先に夕食が逃げる」と言った。エルネは笑い返し、彼に謝りに行った。二人はその日から、的を立てるのを手伝い合うようになった。

 騎射は、速く走ればうまくいく技ではなかった。脚の運びが乱れれば矢先がぶれる。風向きを誤れば、矢は狙いを越えて飛ぶ。何度も練習すると肩が熱を持ち、腕が上がらなくなる。エルネは、射る前に風を読むこと、矢を無駄にしないことを覚えた。セラは褒める代わりに「今日はここまで」と告げた。痛みをこらえて続けようとすると、翌日の見張りを休まなければならないからだ。

 成長したエルネは、群れの道案内になった。季節の移動では、草の育ち具合と水場の位置を確かめ、子どもや年寄りが遅れない道を選ぶ。騎射は、獣を追い払ったり、崖の向こうの仲間に合図を送ったりするときに使った。彼女は弓の腕を頼られることもあったが、決めごとはいつも一人では決めなかった。草地を使う別の群れが来れば、境目の水場を分ける相談に加わった。トゥムはヤギ飼いとして同行し、彼女が急ぐと「速さで話し合いを終わらせるな」とたしなめた。

 二十六歳の春、長雨で川がふくらみ、いつもの渡り場が泥に沈んだ。群れは遠回りをしなければならず、子どもを連れた家族ほど疲れていた。向こう岸には、先に移動していた小さな一団がいる。川を渡る場所を争えば、両方の群れが危険になる。エルネは仲間を説得し、少人数で上流の浅瀬を探すことにした。トゥムと二人で川沿いを進むと、霧の中に、増水で孤立した羊飼いの姿が見えた。

 流れに入れば脚を取られる。エルネはすぐ飛び込まず、岸の高みに上って周囲を見た。斜め上流に、岩で流れが分かれる場所があった。そこで弓を構え、風に乗せて矢を対岸の木の幹へ放つ。矢の羽には赤い布を結んである。仲間に合図を届け、こちらの場所を知らせるためだった。矢は幹に刺さり、布が霧の中で揺れた。救助に来た仲間とロープを張り、羊飼いは無事に岸へ渡った。エルネは続けて、流れの浅い道を見つける。けれど肩は痛み、最後の矢を使い切った。彼女は川を一人で渡らず、仲間の手を借りて戻った。

 その年、群れは相談の末、古い渡り場を捨てて上流に新しい道を作った。反対していた年長者も、羊飼いが助かったことと、子どもたちが安全に渡れたことを見て、少しずつ納得した。エルネは道案内の仕事を続けたが、名誉ある役職を望まなかった。トゥムと結婚し、子どもを二人育てた。子どもたちに弓を教えるときも、最初に教えたのは矢の放ち方ではなく、射た矢を拾う場所を確かめることだった。

 年を重ねると、エルネは若いころのように長く駆けられなくなった。騎射を教える日には、途中で肩を休め、若者が走りすぎれば水を飲ませた。孫たちは彼女の昔の失敗を聞きたがった。ヤギを驚かせた矢の話をすると、トゥムは何度も同じところで吹き出した。彼女はそれを聞くたび、話を少し大げさにして、最後に必ずヤギにも謝ったと付け足した。

 七十二歳の夏、エルネは家のそばの草地で、家族と一緒に夕食を食べた。遠くでは若い者たちが駆け比べをしている。もう彼女は追いつけなかったが、その足音が聞こえるのはうれしかった。夜、子どもたちが寝床を整えるあいだ、彼女は窓の外の草を眺めた。明日の放牧先を心配する必要は、もうなかった。朝まで生きられないと悟っても、恐ろしさより先に、明日の草を確かめる人たちの顔が浮かんだ。「明日の草も、きっとよく伸びるよ」と告げ、エルネは家族の手を握ったまま、静かに息を引き取った。

 彼女の一生は、草原を救った英雄の物語ではない。群れの道を選び、隣人と水場を分け、家族と夕食を囲んだ日々だった。彼女が教えた騎射と、急がず道を探す癖は、次の世代に残った。
そして、物語は終わった。

明日の草も、きっとよく伸びるよ。

OTHER PEOPLE'S LIVES

誰かが歩んだ、異世界の人生。

あなたとは違う運命を、少しだけ覗いてみませんか。

転生者一覧を見る ↗