01
THE LIFE YOU LIVED
異世界で生きた、あなたの一生。
あなたは雨の夕方、駅前の交差点で、信号を見落とした配送車が歩道へ突っ込むのを見た。買い物袋を抱えた子どもが立ちすくみ、そのそばには杖をつく老人がいた。あなたは走って子どもを突き飛ばし、老人の肩を抱いてガードレールの内側へ押し込んだ。二人が転がり込んだ直後、あなたの背中に衝撃が来た。濡れたアスファルトと、誰かの叫び声が遠ざかっていった。
次に目を開けたとき、あなたは卵の内側にいた。殻を破ると、冷たい風が羽毛のない頬をなでた。鷲のような頭、獅子に似た胴と後脚、まだ短い翼。生まれた場所は、雲に近い岩棚に作られたグリフォンの巣だった。母は卵の殻を砕いて食べ、父は崖下の草原から野ウサギを運んできた。巣の仲間は狩りの獲物を分け合ったが、弱った子を抱いて慰める習慣はなかった。あなたが夜に鳴くと、母はただ翼をかぶせた。それで十分な温かさがある日もあれば、そうでない日もあった。
幼いあなたは飛ぶことを急いだ。初めて崖から身を投げたとき、風をつかみ損ね、岩棚の下へ落ちかけた。父が尾羽をくわえて引き戻した。彼は、翼は強さを見せる道具ではなく、風の機嫌を読むためのものだと教えた。あなたは視力に恵まれ、遠くの獣の動きまで見分けられたが、雨で羽が重くなると、飛ぶどころか岩場を歩くのにも苦労した。獅子の胴は頑丈でも、濡れた翼は弱点だった。
成長してから、崖の見張りを任されたあなたは、谷道を通る人間を見つけるたびに追い払った。人間の町は、かつて巣のある岩山のふもとに鉱山を開き、火薬の爆発で営巣地を崩した。母は雛をかばって死に、父は片翼を折られた。鉱夫たちはグリフォンの羽を薬に使えると噂し、傷ついた父まで捕らえようとした。あなたが人間を敵と見なしたのは、血の匂いだけが理由ではない。谷の住人は、森を切り、川を濁らせながら、山の獣を危険なものと呼んだ。その身勝手さを許せなかった。
あなたは人間の荷車を崖道から押し戻し、鉱山の見張り台を壊した。争いのたびに、風裂き鉤爪を使った。翼で落下の勢いを増し、鉤爪に風をまとわせて、武器や足場を断つ技だ。鉱夫の槍を折り、馬車の車輪を外して進路を塞いだこともある。人を裂くより、退かせるために使った。しかし、鉱山の荷運び人が谷底へ落ちた日、あなたは技の風圧が彼を転ばせたのだと気づいた。仲間の一人は「人間なら何人倒れても同じだ」と言った。あなたは言い返せなかった。
父は傷が悪化して飛べなくなり、あなたの背で巣から別の峰へ移った。そこで暮らすうち、あなたは谷の人間の中にも違う者がいると知った。薬草を集める少女ミナは、鉱山の労働者にも水を配り、崩れた小屋から子どもを救い出していた。彼女はあなたを恐れながらも、父の翼に薬を塗った。あなたは礼を言わず、彼女が山へ来るたび、遠回りの道を示した。それは友情と呼ぶには不器用で、敵対をやめる約束でもなかった。
ある冬、鉱山の坑道が崩れ、雪解け水が谷の集落へ流れ込む危険が迫った。人間たちは、かつてグリフォンを狙った火薬を使い、詰まった水路を爆破しようとした。火薬を誤れば、村も巣もまとめて失われる。あなたは人間を助ける気はないと言い張ったが、ミナの弟が坑道に取り残されたと聞き、岩棚から飛び立った。狭い坑道では翼を広げられず、湿気で羽が重く、何度も壁にぶつかった。地上の人々はあなたを見て逃げた。ミナだけが、弟のいる場所を示した。
あなたは坑道の支柱を風裂き鉤爪で切り、崩落しかけた岩を横へ落とした。技の反動で鉤爪が割れ、翼の羽も何枚か抜けた。それでも、ミナの弟と鉱夫二人を外へ引きずり出した。水路の爆破は中止され、集落の人々はあなたを英雄とは呼ばなかった。山を荒らした者を許さないグリフォンとして、町の入口には「近づくな」と書かれた札が残った。それでよかった。あなたも彼らを許したわけではなかったからだ。
人間たちは坑道を閉じ、鉱山を別の場所へ移した。失われた巣は戻らず、父もその春に息を引き取った。あなたは若いグリフォンたちを連れて、さらに高い峰へ移った。ときおり谷の村に降り、道に迷った旅人を崖道から追い返したり、雪崩で塞がれた道を鉤爪で切り開いたりした。村人はあなたを警戒し、あなたも人間の家には近づかなかった。ミナとは何年もかけて、言葉少なに薬草や巣の場所を交換した。親しい友とは最後まで言えなかったが、彼女が老いて山へ来なくなったあとも、あなたは谷の灯りを遠くから見守った。
五十を越えるころ、翼の上げ下ろしが遅くなり、強風の谷を渡るのが難しくなった。最後の冬、雪に閉じ込められた人々の小屋を見つけた。かつてなら人間の苦境など見捨てたかもしれない。あなたは風裂き鉤爪で雪の固い縁を崩し、煙突を埋めていた雪を落とした。助かった人々はあなたを恐れて戸を閉めたが、ひとりの子どもが戸口に魚を置いた。あなたは食べず、翌朝、山へ戻った。
春、あなたは巣の近くで静かに倒れた。最後に見たのは、谷から山へ続く細い道だった。敵対は消えず、和解も叶わなかった。それでも、あなたが壊した道の先には、帰っていく者たちがいた。強くなっても失ったものは戻らず、誰かを救っても憎しみは消えなかった。けれど、守る境界は、誰かの帰り道でもあった。
次に目を開けたとき、あなたは卵の内側にいた。殻を破ると、冷たい風が羽毛のない頬をなでた。鷲のような頭、獅子に似た胴と後脚、まだ短い翼。生まれた場所は、雲に近い岩棚に作られたグリフォンの巣だった。母は卵の殻を砕いて食べ、父は崖下の草原から野ウサギを運んできた。巣の仲間は狩りの獲物を分け合ったが、弱った子を抱いて慰める習慣はなかった。あなたが夜に鳴くと、母はただ翼をかぶせた。それで十分な温かさがある日もあれば、そうでない日もあった。
幼いあなたは飛ぶことを急いだ。初めて崖から身を投げたとき、風をつかみ損ね、岩棚の下へ落ちかけた。父が尾羽をくわえて引き戻した。彼は、翼は強さを見せる道具ではなく、風の機嫌を読むためのものだと教えた。あなたは視力に恵まれ、遠くの獣の動きまで見分けられたが、雨で羽が重くなると、飛ぶどころか岩場を歩くのにも苦労した。獅子の胴は頑丈でも、濡れた翼は弱点だった。
成長してから、崖の見張りを任されたあなたは、谷道を通る人間を見つけるたびに追い払った。人間の町は、かつて巣のある岩山のふもとに鉱山を開き、火薬の爆発で営巣地を崩した。母は雛をかばって死に、父は片翼を折られた。鉱夫たちはグリフォンの羽を薬に使えると噂し、傷ついた父まで捕らえようとした。あなたが人間を敵と見なしたのは、血の匂いだけが理由ではない。谷の住人は、森を切り、川を濁らせながら、山の獣を危険なものと呼んだ。その身勝手さを許せなかった。
あなたは人間の荷車を崖道から押し戻し、鉱山の見張り台を壊した。争いのたびに、風裂き鉤爪を使った。翼で落下の勢いを増し、鉤爪に風をまとわせて、武器や足場を断つ技だ。鉱夫の槍を折り、馬車の車輪を外して進路を塞いだこともある。人を裂くより、退かせるために使った。しかし、鉱山の荷運び人が谷底へ落ちた日、あなたは技の風圧が彼を転ばせたのだと気づいた。仲間の一人は「人間なら何人倒れても同じだ」と言った。あなたは言い返せなかった。
父は傷が悪化して飛べなくなり、あなたの背で巣から別の峰へ移った。そこで暮らすうち、あなたは谷の人間の中にも違う者がいると知った。薬草を集める少女ミナは、鉱山の労働者にも水を配り、崩れた小屋から子どもを救い出していた。彼女はあなたを恐れながらも、父の翼に薬を塗った。あなたは礼を言わず、彼女が山へ来るたび、遠回りの道を示した。それは友情と呼ぶには不器用で、敵対をやめる約束でもなかった。
ある冬、鉱山の坑道が崩れ、雪解け水が谷の集落へ流れ込む危険が迫った。人間たちは、かつてグリフォンを狙った火薬を使い、詰まった水路を爆破しようとした。火薬を誤れば、村も巣もまとめて失われる。あなたは人間を助ける気はないと言い張ったが、ミナの弟が坑道に取り残されたと聞き、岩棚から飛び立った。狭い坑道では翼を広げられず、湿気で羽が重く、何度も壁にぶつかった。地上の人々はあなたを見て逃げた。ミナだけが、弟のいる場所を示した。
あなたは坑道の支柱を風裂き鉤爪で切り、崩落しかけた岩を横へ落とした。技の反動で鉤爪が割れ、翼の羽も何枚か抜けた。それでも、ミナの弟と鉱夫二人を外へ引きずり出した。水路の爆破は中止され、集落の人々はあなたを英雄とは呼ばなかった。山を荒らした者を許さないグリフォンとして、町の入口には「近づくな」と書かれた札が残った。それでよかった。あなたも彼らを許したわけではなかったからだ。
人間たちは坑道を閉じ、鉱山を別の場所へ移した。失われた巣は戻らず、父もその春に息を引き取った。あなたは若いグリフォンたちを連れて、さらに高い峰へ移った。ときおり谷の村に降り、道に迷った旅人を崖道から追い返したり、雪崩で塞がれた道を鉤爪で切り開いたりした。村人はあなたを警戒し、あなたも人間の家には近づかなかった。ミナとは何年もかけて、言葉少なに薬草や巣の場所を交換した。親しい友とは最後まで言えなかったが、彼女が老いて山へ来なくなったあとも、あなたは谷の灯りを遠くから見守った。
五十を越えるころ、翼の上げ下ろしが遅くなり、強風の谷を渡るのが難しくなった。最後の冬、雪に閉じ込められた人々の小屋を見つけた。かつてなら人間の苦境など見捨てたかもしれない。あなたは風裂き鉤爪で雪の固い縁を崩し、煙突を埋めていた雪を落とした。助かった人々はあなたを恐れて戸を閉めたが、ひとりの子どもが戸口に魚を置いた。あなたは食べず、翌朝、山へ戻った。
春、あなたは巣の近くで静かに倒れた。最後に見たのは、谷から山へ続く細い道だった。敵対は消えず、和解も叶わなかった。それでも、あなたが壊した道の先には、帰っていく者たちがいた。強くなっても失ったものは戻らず、誰かを救っても憎しみは消えなかった。けれど、守る境界は、誰かの帰り道でもあった。
そして、物語は終わった。
守る境界は、誰かの帰り道でもあった。




